2014年12月16日火曜日

僕には何も言えないけど
あなたはこの街隅で
路上に座り込んでいるのに
余り不幸そうじゃない

僕はただ通り過ぎてゆくけれど
一人ぽっちで座っているあなたは
下手くそな笛を吹き続けている
ちっとも上手くない音

いつかはのら猫のように
くたばっちまうのだろうけど
それでも人の人生だ
何が幸せで不幸せだなんて
誰にもわかるものか

誰にも聞かせる気のない
笛の音だろうけど
誰かがうるさいと言い
誰かが耳にしている

その音は街を切り裂いて
そのすきまから
空へと記憶されていった

その汚らしいあなたは
もしかしたら
聖者の生まれ変わりなのかもしれない

馬鹿らしいから
僕は黙って通り過ぎてゆくけれど

誰が幸せで誰が不幸せかだなんて
誰にも分かりはしない
小さな幸せに
忘却して生きているのかも知れない

誰もが何かを見たいんじゃないかな
だから煙草の煙りをくゆらせてみる
もしかしたら何かが分かるんじゃないかと
この部屋でテレビをつけたまま
僕は何かを見ようとしている

ねぇあなたは今頃
何を思いどこで何をしているのかなぁ

決してそれは分からないけれど
あなたは同じ時を同じ街で生きている
それだけは信じているよ

ねぇあなたに幸せなんて
聞いても仕方ないけど
自分の幸せについて思っているよりは
よっぽどいいだろう

君の幸せを願っている方が
だから願っているだけにしておくが

誰の幸せも願っていない
そんな笛の音が
街の夜に響いていた

あなたはだた吹いていた
他の人の耳に届いてしまうのが
この世界だ

それでいい
きっとそんな世界だからいいんだ

一人きりの世界じゃない
けれど寂しくないわけでもない
街は空へとそびえ立ってゆくけれど
煙草の煙りほどにも揺らめきもしない

あなたとは二度と会うことはないだろうけど
それもこの街の片隅でのこと
色々なものがあるんだろうけど
僕には上手く言えないよ

僕には上手く言えないけれど
そうだな

あなたには何も言えないけれど
願っているよ

(1997.09.11)

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