僕には何も言えないけど
あなたはこの街隅で
路上に座り込んでいるのに
余り不幸そうじゃない
僕はただ通り過ぎてゆくけれど
一人ぽっちで座っているあなたは
下手くそな笛を吹き続けている
ちっとも上手くない音
いつかはのら猫のように
くたばっちまうのだろうけど
それでも人の人生だ
何が幸せで不幸せだなんて
誰にもわかるものか
誰にも聞かせる気のない
笛の音だろうけど
誰かがうるさいと言い
誰かが耳にしている
その音は街を切り裂いて
そのすきまから
空へと記憶されていった
その汚らしいあなたは
もしかしたら
聖者の生まれ変わりなのかもしれない
馬鹿らしいから
僕は黙って通り過ぎてゆくけれど
誰が幸せで誰が不幸せかだなんて
誰にも分かりはしない
小さな幸せに
忘却して生きているのかも知れない
誰もが何かを見たいんじゃないかな
だから煙草の煙りをくゆらせてみる
もしかしたら何かが分かるんじゃないかと
この部屋でテレビをつけたまま
僕は何かを見ようとしている
ねぇあなたは今頃
何を思いどこで何をしているのかなぁ
決してそれは分からないけれど
あなたは同じ時を同じ街で生きている
それだけは信じているよ
ねぇあなたに幸せなんて
聞いても仕方ないけど
自分の幸せについて思っているよりは
よっぽどいいだろう
君の幸せを願っている方が
だから願っているだけにしておくが
誰の幸せも願っていない
そんな笛の音が
街の夜に響いていた
あなたはだた吹いていた
他の人の耳に届いてしまうのが
この世界だ
それでいい
きっとそんな世界だからいいんだ
一人きりの世界じゃない
けれど寂しくないわけでもない
街は空へとそびえ立ってゆくけれど
煙草の煙りほどにも揺らめきもしない
あなたとは二度と会うことはないだろうけど
それもこの街の片隅でのこと
色々なものがあるんだろうけど
僕には上手く言えないよ
僕には上手く言えないけれど
そうだな
あなたには何も言えないけれど
願っているよ
(1997.09.11)
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